●はじめに
筆者が所属している大阪市立科学館友の会の8月例会で、「ペルセウス座流星群のクラスター現象」について話題になりました。現象自体はいろんなメディアでも報道されていますので、そちらを見てください。オリジナルは弘前市の「星と森のロマントピア」にある公開天文台「銀河」です。
さて、この現象。これまでも「しし座流星群(1997/2001)」や「εペルセウス群(2016)」で確認されているとのこと。そして「しし座流星群」の方では日本天文学会の英文報告誌「PASJ」で論文が出ています。著者の一人からいただいた情報では、次のような議論をしているそうです。
「複数の流星体を結びつける『粘着質の分子あるいは氷』が、いつ、どのように剥がされたかを議論している」
なるほど、地球に近づくにつれてだんだんと大気が濃くなってくるため、その影響で分裂したと考えているということのようです。でも何となく、それだと1990年代以降にしか発見例が無いのは不思議です。というわけで、別のものがトリガーにならないかちょっと考えてみました。それは「スペースデブリ(宇宙ゴミ)との衝突」です。
●計算(第一段階)
流星の専門家と話をしてみたところ、それなりの大きさがなければいかんだろうということで、とりあえずは直径5mmくらいの二酸化珪素(SiO2)の粒が分裂して散らばったとして考えてみます。
クラスターの拡がりは動画からみて、おそらく上空100kmで30km程度ではないかということでした。このへんは検証が必要でしょうが、とりあえず、それを前提で考えましょう。400km上空で分裂した場合、もし最短距離で垂直に落下してきた場合、300km進む間に30km散らばることから、次の式で計算可能です。
arctan(30/300) = arctan(1/10) = 5.7degree
ということで、最大でだいたい5.7度くらいの角度の範囲に散らばらなければいけない計算です。
もちろん、これは高度400kmで微小デブリと衝突し、そのまま地球の中心に向かって鉛直降下した場合の距離ですので、斜めに突入した場合にはもっと距離が長くなります。その場合はもっと小さな角度でも構わないということです。そこまで無理な数字ではありませんので、ありそうな感じではあります。
●計算(第二段階)
次に分裂にはどれくらいのエネルギー量が必要かというのを、ChatGPTと一緒に計算してみました。エネルギーの範囲は上限と下限があります。
まず、あまりにも衝突エネルギーが大きいと蒸発してしまうので、そこが上限。これをE1とします。
そして分裂しないと話になりませんので、分裂に必要なエネルギーが下限です。これをE2としましょう。
では上限の方から考えましょう。
直径5mmのSiO2を蒸発させるのに必要なエネルギーはChatGPT曰く、1.7×103J(ジュール)だそうです。一応これを信用します。
すると衝突時の相対速度をもし1.0km/sとすると、エネルギーE1に必要な質量m1は次の計算で求められます。
E1 = 1/2 m1 v2
1.7×103 = 1/2 m1 (1.0×103)2
m1 = 1.7×2×103 /106 =3.4 × 10-3
つまりデブリの質量は3.4mgとなります。もっと軽くても相対速度が大きければ完全蒸発は起こります。実際の相対速度はのちほど考えることとします。
次に砕くのに必要なエネルギーE2は、ChatGPT曰く数~十数mJ(ミリジュール)だそうです。そこで今回は1.0×10mJとしましょう。すると相対速度が1.0km/sなら、必要な質量m2は次の式で計算できます。
E2 = 1/2 m2 v2
1.0×10-2 = 1/2 m2 (1.0×103)2
m2 = 2.0×10-2 /106 =2.0 × 10-8
小さいですね……0.02μgということです。
つまり相対速度が1.0km/sであれば、0.02μgより重く、3.4mgよりも小さければ良いということです。~1.0mgくらいのデブリとの衝突なら、現実的にあり得そうな感じで、これくらいの質量だとロケットなどに塗られていた塗料のかけらが剥がれたもの、いわゆる塗料片です。
もちろんもっと大きな質量のものと衝突する場合もあるだろうし、もっと相対速度が速い場合もあるでしょう。というわけで、現実的な相対速度を考えてみましょう。
●ペルセウス座流星群の場合
ペルセウス座流星群の地心速度は59~60km/sだそうな。ちなみに「地心速度」というのは地球に対する相対速度です。結構速いな。
デブリなんて地球の第1宇宙速度でしかありませんので、せいぜい8km/sです。流星群の速度の方が圧倒的に速い。もしデブリの真後ろから流星群の粒子がおかまを掘ったとしても、50km/sくらいの相対速度ですから、想定していた1km/sどころの騒ぎではありません。
ということはですね、エネルギーは速度の2乗で大きくなりますので、速度が50倍であればエネルギーは2500倍です。ということは、質量は1/2500倍で十分です。蒸発する3.4mgの2500分の1だと1.4μgくらいになります。うーん、これはどうなんだろう……? そんな小さなデブリだと、あるかどうかもわからんですね。
では逆に1mgのデブリに5mmではなく、1mgのデブリにもっと大きな砂粒(例えば数cmかもっと大きい)が衝突したと仮定する方が良いでしょう。一部は蒸発し、残った部分が砕けて飛び散り、クラスターになったと考えるわけです。
エネルギーが2500倍になるということは、完全蒸発させられる体積が単純計算で2500倍になるということです。直径だと3乗根なので、だいたい13倍くらいになるか。5mmの13倍ってことは6.5cmです。つまり、7~10cmくらいの石なら大半は蒸発して、残りが砕けてクラスター現象を起こすような形になります。結構大きい塊ですね。
●しし座流星群の場合
続いて最初に発見されたしし座流星群の場合も考えてみましょう。
しし座流星群の地心速度を調べると、なんと71km/s。ペルセウス座流星群よりも速いじゃないですか。うーん……デブリの後ろからおかまを掘ったとしても60km/s以上ですから、エネルギーでいうと3600倍。もし相対速度が71km/sだとエネルギーは約5000倍。
それぞれに必要な大きさの直径を求めるために3乗根を取ると、3600倍の場合は15倍以上、5000倍だと約17倍。7.5~8.5cmまでは完全蒸発もありうるということです。となると10cmくらいの小石……いや石だな、これが落ちてきた場合にクラスター現象を起こすことになります。
●結論
もしクラスター現象のトリガーが微小デブリとの衝突だとすると、塗料片程度の小さなデブリに10cm程度の石?岩?が衝突し、大部分は衝突による運動エネルギーで蒸発し、残った部分が分裂してクラスター現象を引き起こすということになります。
もちろんもっと小さな砂粒がデブリと衝突する場合もあるでしょうが、その場合は全てが蒸発してしまうため、そもそも流れ星にもならないでしょう。ですから発見されているようなものは「たまたま大きな塊が降ってきたか、たまたま衝突エネルギーが小さかったイベントだけ」を拾っている可能性もあります。
●今後、必要な研究テーマについて
実は書いていると、これを検証するためにはいろいろな研究を行わないといけないことに気が付きました。
もし衝突が分裂のトリガーだとすると、先に書いたとおりデブリとの相対速度があまりにも大きいので、小さい砂粒だと蒸発してしまいます。それを避けるためにはそれなりに大きい石レベルのモノを要求するわけですが、衝突があるなら前兆現象を拾えるはずです。
衝突ではそれなりのエネルギーが出るはずで、運動エネルギーが全て粒子の蒸発に使われるわけではないでしょう。すると衝突したときに発光現象を伴うはずです。流星群の地心速度を考えると最短でもクラスター現象の4~5秒前、衝突高度や突入角度によってはもう少し前にまず発光があり、その後、クラスター現象が出てくるはずです。
また、衝突すると石にクレーターが形成されたあと、残った部分が分裂してクラスターになります。ということはクレーターの形成に伴って微少粒子が45度くらいの角度でまき散らされることになります。もしかしたらクラスター現象に先立って、もっと離れたところに小さい流星クラスターの出る可能性があります。……いや、粒子があまりにも小さすぎで地上から観測できる明るさにはならないかな。それでも発光現象などは真面目に捜索するべきでしょう。
あとこの説を真面目に研究するなら、こういう小さなデブリのライフサイクルも考える必要があります。
高度400km程度でも大気は存在しますので、時間の経過と共に地球に降ってきてデブリの密度は減っていくはずです。
一方、ロケットの打ち上げで、新しいデブリが供給され、地球の周囲を公転している間に温度変化や放射線の影響などで劣化して微細化していくでしょう。つまりデブリの供給スピードと消滅スピードがどの様になっているのかによって、上空の微小デブリ密度が決まるわけです。
こんな小さなデブリはレーダーで追跡できないので、どれくらいの密度になっているのかはまだ研究仕切れていない気もします。どんな研究が必要なのかを考えるだけでも、結構楽しいな、これ。
そして流星群の粒子の大きさ分布がこれまでの観測によって決定でき、クラスター現象の実例が増えてくれば、その発生頻度から、デブリ密度が決定できるかもしれません。宇宙開発にとっても重要な示唆が得られるわけですね。