プラネタリウム100周年

1923年10月21日に試作機であった光学式プラネタリウム「Zeiss Model1」が公開されてから、ちょうど100年の誕生日が先日やって来た。元々は星空を展示する手法として生み出された機械であったらしい。
ここから光学式プラネタリウムの歴史が始まり、以来、世界各地にプラネタリウムを設置する施設が増えると同時に、メーカーも増え、施設もメーカーも切磋琢磨してきた。

さて、もともとはドイツ国内の夜空のみを映すだけだった「Zeiss Model1」だが、「Model2(いわゆるカール・ツァイスII型)」では緯度変更が可能になった。また恒星を映し出す恒星球が北半球用と南半球用の2つとなり、それを両端に配置した2球式光学プラネタリウムである鉄アレイ型と呼ばれる形状が出たのもこの機体からである。

その後2つの恒星球を隣接して設置するモリソン型、全ての恒星を1つの恒星球で映し出す1球式と進化を続け、ビデオプロジェクターを使うデジタル式プラネタリウムも誕生した。
デジタル式の場合はプラネタリウムを設置しているドームの直径が最大15m程度までであれば、中央に配置したプロジェクターに全周魚眼レンズを取り付けて映写する方式を、それ以上のサイズのドームでは1台のプロジェクターでは解像度が下がってしまうため、ドームの周辺に最大6台のプロジェクターを配置し、それぞれの映像を組み合わせる形でドーム全体をカバーして映写している。

一方、設備以外にも進化したのがプラネタリウム・プログラムである。
当初のプラネタリウムの機械本体の説明、今夜の星空案内から始まり、星座物語の紹介、最新の天文学の紹介、それをエンタメ化してアニメやドラマとのコラボ番組制作、そして空調施設にまで手を入れたアロマヒーリングイベントなど、本来の「星空を展示する」という目的からは外れたような演出のプログラムが増えて来た。
もちろんそれがダメなわけではない。筆者もそのような番組を数多く制作してきたのだから。

さて2000年頃にこのプラネタリウム内で投影する番組制作を行っていたのだが、常々不満に思っていることがあった。それはドーム内に座る位置によって、映像に歪みが生じてしまう点である。球状のドームに正しく星を映し出すには、プラネタリウム本体はドームの中心に設置しなければならない。
逆を返せばプラネタリウム内で最もキレイに星の配列が見える場所はドームの中央であり、そこはプラネタリウム本体が占拠している。つまりプラネタリウムが映し出す星々を鑑賞する人々は、大なり小なり歪んでしまった星空を観ているのである。特にドームの端に近い席は、自分に近いドーム壁面に映し出される星は拡大され、反対側の星々は縮小されて見えてしまう。とてもではないが、本来の星空で見える星々の形と同じとは言えない。

もう一つ、プラネタリウムドーム内の音響である。大きいドームでは最大6基のスピーカーで音場を創り出すのだが、どの席でも同じ様にというわけにはいかない。どうしても床が水平になっているドームでは中心に近い位置を、床が傾斜し前(下)の方と後(上)の方があるドームでは後の方の席を優先した音場にすることが多い。全ての席を同じ条件にすることができない以上、仕方が無いことだと割り切っていた。

だが、デジタル式プラネタリウムの登場で、中心にプラネタリウムの投影機本体を置かなくても良い時代となった。これは星々の配列に歪みの生じない最良の位置を観客に提供出来るチャンスがやって来たと考えられる。とはいえ、やはりドームの端に近い席問題が解決できているわけではない。

これらを解決する方法は何もないのか?
いや、実はある。それはVRゴーグルを使う方法だ。

VRゴーグルを使えば、誰もが最良の環境で目の前に映し出される星々を観ることができる。音もゴーグルに連動したヘッドフォンから最適化された音場で提供可能だ。
そして何よりもドームすらいらない。普通の会議室…だとショボイので劇場のような場所を作りさえすれば、人数に制限なく同時に星空やそこに映し出される星座にまつわる神話、そして最先端の科学技術の成果についても解説可能となる。
隣の人も同じ方向を向いているという一体感や、視野の端にかすかに見えた気がした流れ星などの演出の粋は得られないかもしれないが、大きくなればなるほど維持費が膨大な金額になるプラネタリウム本体とドームスクリーンを専用の建物に設置するというコストは大幅に削減可能だ。

ここから100年のプラネタリウムは本来の「星空を展示する機械」に回帰し、今のプラネタリウムで行われている解説やエンターテインメントプログラムは、VRゴーグルを使用したシアター設備に置き換わっていくのかもしれない。